KPIはあえて未定義でもいい?──柔軟な目標設定で成果を生むマーケ戦略

こんにちは、シンクムーブ株式会社の豊藏です。

マーケティングにおいて、KPI(重要業績評価指標)は一般的に欠かせない存在と考えられています。

まずKPIを決め、その達成に向けたプロセスを逆算する」という手順は、長らく常識的なフレームワークとして機能してきました。しかし近年、ビジネス環境が加速度的に変化し、顧客ニーズや技術トレンドが日々刻々と動く中、果たして「初期段階でKPIを厳密に決めること」は本当に最適解なのでしょうか?

今回は、あえて初期段階ではKPIを未定義のまま進める「柔軟な目標設定」の価値と、その後に生まれる成果創出のプロセスについてお話ししてみたいと思います。

「まず走り、学び、適宜軌道修正する」ことで、思いもよらなかった価値を生み出せるという考え方です。

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KPIを定義するには「手触り感のある数値目標が設定できる」場合に限られる。

多くの企業では、プロジェクト立ち上げ時にKPIを設定し、そこから逆算してタスクやロードマップを引いていきます。これは確かに、全員が同じゴールを共有する上で役立ちますし、進捗を数値化することで組織全体をコントロールしやすくします。

しかし、こうしたメソッドには1つの前提が隠れています。それは「現在想定している戦略や戦術が妥当で、ゴールも明瞭である」という点です。言い換えれば、「何を実現すべきかが明確で、そこに至るルートがおおむね予見可能」という状況を前提としています。

現実問題として、新規事業やAI活用、あるいは未知の市場でのブランド強化など、「やりながら学ぶ」フェーズが長く続くプロジェクトでは、初期のKPI設定が足かせになることも少なくありません。「最初に決めたKPIに固執するあまり、柔軟な方向転換ができず、結果的に中途半端なアウトプットで終わる」といったパターンも見受けられます。

あえてKPIを未定義にするメリット

KPIをあえて未定義にする、つまり最初からゴールを固定しないという姿勢には、以下のようなメリットがあります。

探索フェーズへのコミット

新しい試みでは、「正解」や「最大効率」の道筋が事前にはわからないことが多いものです。KPIに縛られず探索的なアクションを重ねることで、思わぬ顧客ニーズや市場の声をキャッチアップできます。この試行錯誤プロセスが、後々に強力な差別化要因を生むことも珍しくありません。

内部チームのクリエイティビティを促進

厳格な数値目標が先行すると、チームは「数字達成のための定型的アプローチ」に固まりがちです。一方、KPI未定義なら、「このアイデアは面白そうだから試してみよう」「とりあえずプロトタイプを作って反応を見る」など、クリエイティブな発想が生まれやすくなります。初期段階での多彩なアイデア出しは、後の収穫期に大きなアドバンテージをもたらします。

変化への対応力向上

AIや検索アルゴリズム、顧客行動の変化を考えると、半年先すら正確に予測することは困難です。KPIに固執しなければ、「このツールが思ったより使える」「想定外の顧客層から反応があった」といった事象にすぐ対応できます。計画をいじることへの心理的抵抗が小さく、アジャイルな運用が可能となります。

では、いつKPIを定義するのか?

「あえて未定義」というからには、無期限にKPIを放置するわけではありません。むしろ、ある程度の探索期間を経て、自らが確信や一定の確度を得たタイミングでKPIを策定することが重要です。いわば「後付け」や「後追い」でKPIを設定するアプローチです。

探索フェーズ(初期)

市場の声を聞き、仮説検証を行い、素早くプロトタイプを回すフェーズです。この段階では、定性的なインサイト収集や、アイデアスケッチ、A/Bテストを小規模に実施します。ここで得た学びや反応をもとに「本当に狙うべき指標は何か?」が徐々に見えてきます。

KPI明確化フェーズ(中期)

探索を通じて、顧客に訴求すべき価値や有望なチャネル、コンテンツが判明してきたら、改めてKPIを定義します。

たとえば「SEOで検索上位を取ること」自体が目的なのか、「有望見込み顧客からのリード獲得数X件」なのか。「問い合わせ数」よりも「顧客ライフタイムバリュー(LTV)」の方が本質的かもしれません。ここで決めるKPIは、初期段階よりもはるかに実態に合った実行可能な目標となるはずです。

実行・最適化フェーズ(後期)

定義したKPIに向けて、本格的な施策を展開します。この時、すでに市場や顧客理解が深まっているため、単なる数値目標ではなく「何を改善すればKPIが伸びるか」の因果関係をより正確に認識できます。結果として、より成果に直結したPDCAサイクルを回せるのです。

KPI再定義による長期的価値創造

このように、初期段階でKPIをがんじがらめに定義せず、ある程度スケールや方向性が見えた段階で明確化する手法は、「試行錯誤する柔軟性」と「後から軌道を定める確かさ」を両立させます。

実務的には「KPIを持たない」という意思決定は社内合意形成が難しい場合もあります。その際は「現段階では仮KPIなしで行動し、3ヶ月後に再度定義する」など、期間を区切ったトライアルとして提案するのも一つの手です。

ポイントは、最初から完璧な数値目標を追うのではなく、「まだ不確定要素が多いからこそ、学びながらKPIを発見していく」というマインドセットを組織的に醸成することです。これにより、メンバーは目的意識を見失うことなく、同時に自由度の高い創造的なチャレンジが可能になります。

シンクムーブ株式会社が支援する柔軟なマーケ戦略

シンクムーブ株式会社は、「抽象的な戦略を実行可能な計画へブリッジする」ことを得意としています。そのプロセスでは、必ずしも最初から数値目標をガチガチに固める必要はありません。むしろ、顧客組織の中で初期フェーズから伴走し、アイデア探索と小規模PoC(概念実証)を実行しながら、「今本当に必要なKPIは何か?」を対話的に明らかにしていきます。

こうしたアプローチは、従来のコンサルや代理店にはない柔軟なポジショニングを可能にし、顧客企業が自走しつつ成長できる組織基盤を築くことにつながります。

おわりに

KPIは、あくまで目的達成のための道しるべであり、絶対的な「最初からあるべき答え」ではありません。特に変化が激しく、正解が見えづらい時代には、あえて初期段階でKPIを未定義にし、柔軟な目標設定を試みることで、より本質的な成果につながることがあります。

もし、貴社が不確定要素の多いマーケティングプロジェクトで硬直しているなら、ぜひ一度この方法論を検討してみてください。KPI未定義の探索期間が、後に強靭なマーケ戦略の土台となるかもしれません。

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この記事を書いた人

豊藏 翔太のアバター 豊藏 翔太 代表取締役

シンクムーブ株式会社 代表取締役Webコンサルタント
アイオイクス株式会社Webコンサルティング事業部 フェロー

法政大学経営学部卒業後、エン・ジャパン株式会社でセールス、商社系SIerにてITコンサルタントとして勤務後、アイオイクスにてIT/WEB・人材・小売など様々なサイトのセールス/コンサルタント業務を行う。アフィリエイト経験とコンサル経験を活かした、実務に落ちるプロジェクト設計力が強み。

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