AI検索時代のSEO評価は「広義のオーガニック」でまとめて見るべきだと感じた理由

シンクムーブの豊藏です。
「豊藏さん、ChatGPTからの流入ってどうやって計測すればいいですか?」
「指名検索と一般検索、厳密に分けて評価しないとSEOの成果が見えないんじゃないですか?」
最近、こうした相談をよくいただきます。
これについて、私も悩んでるんですが、
正直なところ、「ちゃんと分けて評価したい気持ちはわかるけれど、今のユーザー行動と計測環境を考えると、きれいに分けるのはほぼ無理ゲーだな、とも感じています。
いま、SEOやWeb集客の現場では、こんな矛盾が起きています。
- ツールを使ってデータを細かく分解すればするほど、議論が噛み合わなくなる
- チャネルごとの数字説明に時間を取られ、本来の意思決定が後回しになる
たとえばこんな会話です。
「SEOのセッションは減ったが、Directが増えている。これはSEOの失敗か? ブランドの勝利か?」
「ChatGPT(Referral)経由のコンバージョンは、SEOチームの成果にしていいのか?」
心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そうしたモヤモヤに対して、
- そもそも「きれいに分けられない領域」が広がっているよね
- 経営・マーケが見るべき“単位”を少しだけ大きくしたほうがよくないか?
という視点から、AI時代の現実的な評価・意思決定の考え方を整理します。
この記事の要点
- ユーザー行動は、もはやきれいに分解しにくい
- 検索、AIチャット、指名検索、SNSをユーザーは無意識に行き来している
- 「SEO」「指名」「AI」などを厳密に線引きしようとするほど、実態からズレやすい
- 実務的には「Organic + Referral + Direct」をまとめて見るほうがラク
- GA4のデフォルトチャネルグループで見ると、AI検索はReferral、指名はDirectやOrganicに分散する
- これらをまとめて、「広告費を直接かけていない流入の塊」として評価するほうが合理的
- 経営レベルでは「買う需要(Paid)」と「選ばれる需要(広義のオーガニック)」の2軸で考えた方がシンプルそう
- 細かいチャネルの増減より、「広告なしでどれだけ選ばれているか」という体力を見る
- 投資判断も、この2軸で考えたほうがシンプルになる
- だから、まずは各チャネル別のキーイベント/セッションを出す。が解析の最初の目標だと良さそう。
なぜSEOの議論は噛み合わないのか
SEOは指名検索のパフォーマンス、エース記事の貢献度など、見ようと思えばいくらでも分けて見られる観点があります。
僕自身も、どちらかと言えば「分けたがるタイプ」なのですが、これが議論を噛み合いづらくしている印象です。
マーケティングの現場では、次のような会話が日常的に起きています。
担当者
「今月、SEO(検索クリック数)の流入が10%減りました」
上司
「なんでだ? 順位が落ちたのか?」
担当者
「いえ、順位は横ばいです。ただ、パフォーマンスの良いキーワードでAI Overviewsや広告の露出量が増えてます。…ChatGPT経由なのか、コンバージョンは増えているようですが、先月は調子良いのに、今月は悪かったり、クエリ単位で波があります。」
上司
「で、結局SEOの効果はあるのかないのか、どっちなんだ?」
この会話、誰もサボっていないし、能力の問題でもありません。
ただ、「SEO(検索エンジン)」という箱だけで成果を説明しようとすること自体が、今のユーザー行動と計測の限界に合っていないのだと思います。
ユーザー行動が「分解しづらい領域」に広がった
いまのユーザーは、情報を得るために、次のような行動を瞬間的かつ無意識に行き来しています。
- 検索窓にキーワードを入れる(Organic Search)
- AI Overview の要約を読む。(ゼロクリック / 一部Referral)
- 気になったブランド名をブラウザに直接打ち込む(Direct)
- SNSで流れてきたURLをそのままタップ(Social / Referral)
- Perplexity や ChatGPT に直接質問する(Referral)
これらは、きれいな「ステップ」ではなく、1〜2日、あるいは数週間のあいだに行ったり来たりします。
(Think With Googleの「さぐる」「かためる」を蝶のように行き来するバタフライ・サーキットとはなにかという記事を読むと理解しやすいです。)
実際、こういう動きが日常的に発生します。
- 移動中にスマホで「サービス名 + 評判」を検索(Organic Search)
- その場では離脱するが、名前だけ頭に残る
- 後日PCを開いてブランド名で検索 or URLを直打ち(Organic / Direct)
- ブックマークや履歴からアクセスしてコンバージョン(Direct)
この一連の流れを見て、
「コンバージョンはDirectだから、SEOは無関係」
と言い切るのは、かなり無理があります。
同じように、
- SEO
- 指名検索
- AI検索(LLMO)
- SNS経由
を完全に切り分けて評価することは、構造的にかなり難しくなってきています。
チャネルを分けてラベルを貼った瞬間に、
- 部署ごとの都合のよい解釈
- 分類をきれいに見せるための“調整”
が入り込みやすくなり、本来見たかった「事業としての実態」から、少しずつズレていきます。
「Organic・Referral・Direct」をまとめて見るという割り切り
僕自身も、仕事柄どうしてもSEO視点で細かく見たくなってしまうのですが、
意思決定の単位を「SEO(狭義)」から「広義のオーガニック」に広げる
がシンプルで一番いいんじゃないかなと感じました。
具体的には、GA4のデフォルトチャネルグループでいう以下の3つをまとめて考えた上で、イベント発生数/流入数を割るというイメージです。
- Organic Search(通常の検索流入)
- Referral(外部サイト、ChatGPTなどAIからの流入)
- Direct(ブックマーク、アプリ、ダークソーシャル など)
これらを 「広義のオーガニック」 CPAとして一つの塊で見てみるイメージです。
この整理をした方が良いメリットを考えてみました。
1. AI由来の流入は、多くが「Referral」に紛れ込む
ここをSEOから切り離して考えると、
「AI対策をした結果、何が起きたのか?」
が見えにくくなってしまいます。
もちろん、Referralを分解したり、3rd Partyツールで言及数や言及内容を追うのも良いと思うのですが、マーケティング目的単体で考えた時に、今のところ確認以上のメリットが薄いように思います。
分析時には分解すべきと思いますが、評価軸としては分けない方がいいんじゃないかと考えました。
2. 指名検索やダークソーシャルは「Direct」に寄りがち
コンテンツやSEOで認知を取り、ユーザーがブランド名を覚えてくれて、後から直接訪問してくれるケースです。
これは本質的にはコンテンツ/SEOの成果ですが、GA4的には「Direct」に分類されることが少なくありません。
特に。Slackなどダークソーシャルでの展開はDirectに分類されます。これも合理的かなと考えます。
3. 経営レベルの判断には、ここまでの粒度は不要なことが多い
実際、SEO はCVへのキーワードの質など含めて考えれば考えるほど、綺麗に事象を構造化するのが難しい領域です。
さらに、経営レイヤーが見たいのは、もう少し大きな単位の問いだなと思いました。
- 「お金を払って集めた需要(Paid)」と
- 「お金を払わずに選ばれた需要(広義のオーガニック)」のバランスはどうか
- 「広告なしでも、どれくらい安定してお客さんが来る状態か」
チャネル別の細かな差は、現場の改善には役立ちますが、経営会議のテーブルにそのまま持ち込むと、議論が細部に入りすぎることが多いです。
「広告費を使わずに獲得できたコンバージョン(Organic + Referral + Direct)」のCPAはいくらか?
まずはこの問いで、地力を測るとしっくりくるケースが多いと感じましたし、そのファクトからSEOやオーガニックのポテンシャルを類推していくのが現実的かなと考えました。
LLMO(AI検索)はSEOの代替ではなく「広義のオーガニックの一部」
「AI検索(LLMO)の対策をどうするか?」という相談も増えていますが、個人的には、SEOと切り離して別枠で管理しすぎないほうがいいと考えています。
理由を整理すると、だいたい次の4つです。
- 入口としては「検索の代替」になりつつある
- これまでGoogle検索に打っていた質問を、そのままChatGPTやPerplexityに投げている
- 行動原理は「自発的な情報取得」であり、広告とは性質が違う
- 「見せられた」のではなく、「自分から情報を取りにいっている」
- 参照される情報源は、結局Web上のコンテンツやレビュー
- つまり、従来のSEOやブランド施策の延長線上にある
- 計測の精度は、しばらく高くならない可能性が高い
- Search Console には出てこない経路も多く、「LLMO経由」を完全に切り出すのは難しい
こう考えると、LLMOは「SEOとは別物」ではなく、
“広義のオーガニック”という領域が、新しく増えた部分
ぐらいに捉えておくほうが、実務上は扱いやすいです。
AI用の記事とSEO用の記事を分けて作る、みたいなことを始めると、運用コストのわりに成果が分かりにくくなる印象です。
中長期のAI検索は「予測」ではなく「張り方の問題」として考える
ここまで話すと、ほぼ必ず聞かれるのがこれです。
「で、AI検索からの流入って、今後どれくらい増えるんですか?」
正直に言うと、これを具体的な数字で言い切れる人は、今のところいないと思っています。
プラットフォームの仕様変更ひとつで、明日には増減が大きく変わる領域です。
なので、AI検索については「予測の精度」を上げにいくよりも、
自社として、どんなスタンスで“張る”のかを決める
ことのほうが大事だと考えています。
例えば、こんなイメージです。
- 攻めのスタンス
- 「AI検索は成長余地が大きい」と見て、
- 引用されやすい情報構造(一次情報・FAQ・構造化データなど)に投資する
- 主要なAIツールで、自社ブランドの出方を定期的にチェックする
- 「AI検索は成長余地が大きい」と見て、
- 守りのスタンス
- インデックス投資のように、
- 既存コンテンツをAIにも読まれやすい形に最低限整える
- 計測やログ取得の環境だけ整えて、一定期間は静観する
- リソースの大半は、依然として既存のSEOや広告に寄せる
- インデックス投資のように、
どちらが正解かは、事業フェーズやリスク許容度、チームの体制によって変わります。
ここは、僕自身も、クライアントごとにこの「張り方」を一緒に考えている段階で正直、まだ手探りです。
AI時代の評価フレームをシンプルに整理すると
ここまでを一度整理すると、こんな形になります。
1. 分解できる領域(Paid)は、しっかり分解する
ここは、広告運用の専門家に任せるべき領域なので、私からは割愛します。(きっとできる?はず?!)
2. 分解しづらい領域(Organic / Referral / Direct)は、塊で見る
- 広義のオーガニック(Organic Search + Referral + Direct)は、
- 「広告費をかけずに集まっている需要の塊」として扱う
- KPIは「広義のオーガニック全体のCPA」や「コンバージョン数」「LTV」など
- チャネル間の細かい移動(例:Organic → Direct)は、
- 「計測の仕様」としてある程度は受け入れる
- 犯人探しよりも、「この塊として増えているか」を見る
3. 未来(AI検索 / LLMO)は、投資判断として扱う
- 短期のROIではなく、中長期のブランド・コンテンツ資産への投資と捉える
- 自社としてのスタンス(攻める/守る)を決めて、半年〜1年単位で見直す
シンプルに言い換えると、
「分解して意味があるところだけ分解し、分解しづらいところは、無理に分けずに塊で見る」
これが、いまの環境では、いちばん誤差の少ない意思決定の仕方に近いのではないか、というのが僕の感覚です。
よくある「ハマりがちな失敗パターン」
現場で見かける、ありがちなハマり方も挙げておきます。
- SEOチームと広報・PRチーム(指名検索担当)が、予算や実績を取り合う
- 本来は同じ「広義のオーガニック」を増やす仲間なのに、「どっちの成果か?」の議論で消耗してしまう
- GA4の数字合わせに時間を使い、「なぜDirectが増えたか」の犯人探し会議が毎月開かれる
- 1〜2割の誤差を説明するために、何時間も会議をしてしまう
- 「AI経由の数字が出ないと予算が出せない」と言って、動き出しが遅れる
- 完璧な計測スキームが整うのを待っている間に、競合が“広義のオーガニック”を積み上げていく
こうした状態に陥っているときほど、
「そもそも、どの粒度で評価しようとしているのか?」
を見直すと、議論が整理されやすくなります。
外部リンク:AI検索時代を勝ち抜くために「マーケティングと広報の融合」が大切な理由
まとめ:SEO単体ではなく、「広義のオーガニック」を評価軸にしてみる
私自身も、LookerStudioやGTM、GA4をそれなりに使う方のため、ついつい色々やりたくなってしまうのですが、実際レポーティングで総論を見る時には
「広義のオーガニック全体として、きちんと育っているか?」
を見ると考える方が、事業の感覚に近いと感じています。もちろん、これらを取得するのはそれはそれで計測設定含めきちんとやる必要があるのですが、目的はかなり明確になると感じます。
逆に、「細かいSEO指標の議論ばかりで、本質的な話ができていないかも」と感じるところがあれば、一度視点を変えて「広義のオーガニック」という単位で、自社の数字を眺めてみると、少し見え方が変わるかもしれません。
最後に:こういうテーマをご一緒に整理することもしています
この記事で書いたような、
- 評価軸の設計をどう考えるか
- 部門ごとにバラバラなKPIを、どう整理するか
- GA4上の「Organic / Referral / Direct」を、どこまでまとめて扱うか
といったテーマについて、クライアントの皆さんと一緒に整理するお手伝いもしています。
「まずはうちの状況をお伝えした上で、どう分解して進めていくか相談したい」
そんなライトな相談からでも大丈夫です。
もしモヤモヤしているところがあれば、お気軽にご相談ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました!


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