BtoBマーケの「当たらない予測」、そろそろやめませんか?

シンクムーブの豊蔵と申します。
この記事は、#B2Bマーケアドベントカレンダー2025 3日目の記事です。アドベントカレンダーの記事や感想に関してはXのハッシュタグ「#B2Bマーケアドベント」をご覧ください!
「来期のリード獲得数、予測出して」
「施策別のCPA、見込みどうなってる?」
一応、マーケティング業界の端くれとして、大変恥ずかしいのですが、正直に言います。
当たったこと、ほぼないです。
しかも、それは私だけじゃありません。「当たらない」と分かりながらも、予測を立てざるを得ません。
でも、「こんなの作っても意味ありませんよ」と口にした瞬間に「じゃあ何を根拠に予算を取るんだ」と詰められるのも、全員わかってます。
なので、当たらないとわかっている予測を、せっせと作ります。大変ですよね…..
そして予測と実績の差分を説明するための会議が開かれる。
その因果は正しいのか、誰が悪いのか、どこで読み違えたのか。
私は、この5年で数十社のBtoBマーケティングに関わってきました。その中で何度も見てきた光景があります。
予測精度を上げようと、Excelのモデルを複雑にする。アトリビューションを細かく設計して、施策別のROIを出そうとします。でも結局、数字は作られるし。帰属の仕方を変えれば、どうとでも見えてしまいます。
悪いのは担当者じゃありません。仕組みそのものが、幻想を強制していると考えます。
この記事では、「BtoBマーケで予測を立てることに、そもそも意味があるのか?」という問いに向き合います。
BtoBで施策単位の評価が無理ゲーな構造的理由
まず、この話をさせてください。
「施策単位で正確に評価する」という粒度が、BtoBの購買行動と根本的に噛み合っていないと感じます。
というのも、これは考えれば当たり前の話も多いのですが
- 検討期間が長い
→3ヶ月から1年、場合によってはそれ以上。施策を打ってから成果が出るまでのタイムラグが大きすぎて、何が効いたのか特定できない。 - 意思決定者が複数いる
→情報を調べる人と、決める人が違う。現場担当者がコンテンツを読んで、上司に稟議を上げて、役員が決裁する。どの接点に帰属させるかで、数字はいくらでも変わる。 - ダークファネルがでかい
→Slackでの社内共有、会議での口コミ、知人からの紹介。GA4には何も残らない「見えない接点」が、実際の意思決定を大きく左右している。 - サンプルサイズが小さい
→月間CV数が数十件という企業も多い。統計的に意味のある分析ができるサンプルサイズじゃない。
たとえば実際にあったケースだと、
- 最初の接点は、営業経由の知人紹介
- その後にオウンド記事を読み
- 最後にセミナーに参加してからCV
という案件がありました。
でも、社内報告では「セミナー経由でリード獲得」と処理されます。
セミナー担当としてはそう報告した方が楽だし、そもそも解釈変えたら、MAとかGA4の意味なくなりますし、わかりやすいですよね。
これは誰も悪意があるわけじゃない。構造がそうさせていると感じます。
アトリビューションは2023年に死んだ
さらに悪いことに、この状況はAI時代に入って加速度的に悪化しています。
私の体感では、既存のアトリビューションモデルは2023年を最後に機能しなくなりました。
LLM経由の影響が、意思決定を複雑にしました。ChatGPTやPerplexityでの情報収集して、その後ブランド名で直接検索してくる。GA4上は「Direct」か「Organic Search」。
でも実際の起点はAIチャット。これを何の成果と呼ぶのか、誰にもわからない。
ダークソーシャルの量が年々増えています。SlackやTeams、社内Wikiでの共有。URLにパラメータがつかない経路が増え続けている。接点が多様化してる。
ゼロクリック検索の増加も深刻です。AI Overviewsで要約を読んで満足する。サイトに来ない。でもブランド認知は上がっている。これをどう評価する?
以前、「AI検索時代のSEO評価は『広義のオーガニック』でまとめて見るべき」という記事を書きました。
そこで提案したのは、Organic Search + Referral + Directをまとめて「広義のオーガニック」として捉える考え方です。分解できないものを無理に分解するのではなく、「広告費をかけずに獲得できた需要の塊」として見る。
正直、これが今の計測環境で取れる「まともな観測点」の限界だと思っています。
もちろんこれも完璧ではありませんが、「どこまでいっても見えないものは見えない」と割り切ったうえでの、現実的な着地点だと考えています。
どんな会社なら「予測をやめていい(軽くしていい)」のか
私の感覚だと、少なくとも次のような条件が揃っている会社は、
「精緻な予測」にリソースを割く意味が薄いと考えています。
- 1件あたりのLTVが高く、商談〜受注までの期間が3ヶ月以上
- 初回接点〜受注まで、3つ以上の接点が絡む案件が大半
- 現場の感覚として「予測はだいたい外れる」が共通認識になっている
正直、この条件には、BtoBではかなり多くの会社が当てはまるはずです。
こういう会社は、「当たらない予測」を作る時間を、
「正直な振り返り」と「R&Dの設計」に振った方が、長期的な勝率が上がります。
「予測して評価」から「振り返って学習」へ
では、どうすればいいのか。
私が提案したいのは、「予測して評価する」から「振り返って学習する」への転換です。
予測ベースのマネジメント(現状)
予測を立てる → 達成できたか評価 → 達成できてない → 「なぜ?」を問い詰められる → 言い訳を考える → 来期は「もっと精度の高い予測を」と言われる →(ループ)
この構造の最大の問題は、予測が「正解に近づくため」ではなく「怒られないため」に作られることです。
担当者は常にKPIと経営の板挟みになる。上には良い数字を見せたい。でも現実は違う。だから「ちょうどいい予測」を作る。達成できそうで、かつ上が納得する数字を。
もちろん、こういう予測を立てざるを得ない組織文化は存在します。ただ、当の上司が求めているのは、実は次のような振り返りなケースも多いです。
振り返りベースのマネジメント(提案)
去年、広義のオーガニック全体で○○件のCVがあった → こういう数字の変化があった → 増減の要因として考えられるのは△△ → じゃあ来年は△△を続ける/やめるべきと考えられる。
予測という「正解」がないので、差分の説明会議も発生しない。言い訳ではなく、純粋な考察をする。
考察を仕切った上で、予算を振り分ける。目標を付けてから予算を立てると、一見CPAや投資対効果がわかるように感じますが、歪む原因です。
見る単位も「施策単位」ではなく「塊」で見る。広義のオーガニックが去年と比べて増えているか減っているか。この傾向を見た方が、経営判断としては使いやすいはずです。
予算配分の新フレーム:振り返り80% + R&D20%
「振り返りベースはわかった。じゃあ予算はどう決めるんだ?」
この問いには、こう答えます。
振り返りベース:80% 去年うまくいったことを継続する。体力を維持・向上させるための投資。
R&D枠:20% 新しい挑戦、または過去に一度やめた施策への再挑戦。ここは「評価しない」と最初から決めておく。
R&D枠のポイントは3つです。
- スモールベットから始める 少額でインパクトが狙える施策を選ぶ。失敗しても痛くない規模で、まず「芽が出るかどうか」だけを見る。
- 評価軸は「芽が出たか」を中心に ROIは見ない。CPAも見ない。半年〜1年で「続けたら伸びそうか?」という感触だけを見る。
- 経営への説明は「実験枠」として合意を取る 「この20%は短期ROIを求めない実験枠です」と最初から握っておく。でないと、3ヶ月で「で、ROIは?」と詰められて終わる。
R&D枠で「過去の失敗施策」をAI時代にリベンジする
R&D枠で何をやるか。前例踏襲やコンサバティブなカルチャーでなければ、実はAI時代はチャンスがいっぱいです。
私が最近クライアントと試しているのは、「過去に一度失敗した施策を、AI時代にもう一度やってみる」というアプローチです。
なぜなら、AI時代で、評価軸そのものが変わっているからです。
オウンドメディア 「記事を書いたけど読まれなかった」
→ 今、オウンドメディアはAIの学習データになる。ChatGPTに引用されれば、検索順位に関係なく露出できる。
ホワイトペーパー 「DLはされるけど、リードが温まらない」
→ AIが「○○について詳しい資料」として言及してくれたら、接点の質が変わる。
ウェビナー 「集客コストが高すぎて割に合わなかった」
→ アーカイブがAIの学習ソースになるなら、資産としての価値が変わる。
SEO 「ビッグワード取れなくて諦めた」
→ SEOは「順位競争」から「AI露出競争」に移行しつつある。AIへ正しく企業の状況を認識させる。
これらは一度失敗しているからこそ、「来期予測」を前提にした予算では、どうしても再チャレンジしづらい施策だと思います。
だからこそ、AIによって一度ガラポンが起きている今、「評価しない20%」のR&D枠に逃がして、もう一度だけきちんとテーブルに乗せてみる価値もある、と考えています。
まとめ:予測を続ける限り、マーケ組織は疲弊し続ける
ここまでの話を整理します。
- BtoBマーケで「施策単位の評価」は、構造的に不可能
→検討期間の長さ、複数の意思決定者、ダークファネル、サンプルサイズ。そしてAI時代で計測環境はさらに悪化しました。 - 「予測して評価」から「振り返って学習」へ
→施策単位ではなく「広義のオーガニック」という塊で見る。去年と今年を比較して、傾向を読む。 - 予算配分は「振り返り80% + R&D20%」
→ 過去うまくいったことは継続。ただし、AI時代の変化は激しい。新しい挑戦は「評価しない」と決めて、スモールベッツで張る。
最後に、はっきり言わせてください。
「予測」を主役にしたマネジメントを続ける限り、マーケ組織は永遠に疲弊し続けます。
当たらない予測を作り、達成できなかった理由を説明し、来期はもっと精度を上げろと言われる。このループは、誰も幸せになりません。
逆に言えば、このループから降りる覚悟を持てた組織は、圧倒的に強くなれる。
正直なデータに向き合い、振り返りから学び、小さく張って検証する。
地味だけど、これが今の環境で取れる最も合理的なアプローチだと、私は考えています。
あなたの組織は、来年もまだ「予測」を作り続けますか?
予測を立てるなとは言いません。でも、過去の施策をきちんと振り返る方が、はるかに重要です。
こういうテーマをご一緒に整理することもしています
この記事で書いたような、
- マーケティングの評価軸をどう再設計するか
- 「振り返りベース」への移行をどう経営と握るか
- R&D枠の設計と、過去施策のリベンジ選定
といったテーマについて、クライアントの皆さんと一緒に整理するお手伝いをしています。
「まずはうちの状況を聞いてもらって、どう進めるか壁打ちしたい」
そんなライトな相談からでも歓迎です。 もし今の評価・予測の仕組みにモヤモヤがあれば、お気軽にご連絡ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

次はunnameの平塚さん「経営視点の正体」という記事を書かれるようにです。お楽しみに!


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