なぜAI活用に差が生まれるのか?コンテキストエンジニアリング=ファシリテーション論

シンクムーブの豊藏です。
2025年7月現在、直近1年間で「AIに関する相談内容」が明らかに変わったと感じます。
2024年前半までは「ChatGPTを使ってみたいのですが、何から始めれば良いでしょうか?」という相談が多かったです。しかし最近では
- 「AIツールは一通り試したのですが、期待していたほど業務効率が上がりません」
- 「生成AIで作ったコンテンツが、なんとなく薄っぺらい感じがして…」
- 「Difyでワークフローを作ってもらったけれど、いまいち実用性が感じられない…」
といった、より具体的で切実な悩みが増えています。
同じAIツールを使っているのに、なぜ10倍の成果を出す人と「使えない」と感じる人に分かれるのか?
その決定的な差は「コンテキストエンジニアリング」にあると感じており、そして私は、これがファシリテーションと本質的に同じ技術だと感じています。
AI活用の3つのフェーズと転換点
2022年末のChatGPTリリースから約2年。AI活用には明確に3つのフェーズがありました。第3フェーズで「コンテキストエンジニアリング」が重要になりました。
フェーズ | 時期 | 特徴 |
第1フェーズ:「魔法の道具」期待 | 2023年前半 | 「何でもできる!」という過度な期待。プロンプト一発で完璧な答えを求めていた時期。 |
第2フェーズ:「現実との乖離」発見 | 2023年後半〜2024年前半 | 「思ったより使えない」という幻滅。単発のプロンプトでは限界があることが明らかに。 |
第3フェーズ:「協働の質」を問う | 2024年後半〜現在 | AIとの協働プロセスそのものを設計する時代。ここで「コンテキストエンジニアリング」が重要になる。 |
「どう頼むか」から「何を見せるか」へ
Andrej Karpathyが「コンテキストエンジニアリング」を「コンテキストウィンドウを精巧に設計する芸術と科学」と定義した背景には、従来のプロンプトエンジニアリングの限界があります。
2025年AI開発の新常識!Context Engineering(コンテキストエンジニアリング)が変える開発現場
従来のプロンプトエンジニアリング | コンテキストエンジニアリング | |
技術の焦点 | 「どう頼むか」の技術 | 「何を与えるか、何を与えないか」の設計技術 |
アプローチ | 単発的な指示の最適化 | 体系的な文脈構築 |
設計対象 | プロンプトの調整 | 情報アーキテクチャの設計 |
具体例(競合分析) | 同じテンプレートを活用する | 〇〇と××がコアコンピタンスと考えているがどう思う?→これを踏まえて自社が取るべき戦略は? |
なぜファシリテーションと似ていると感じるのか?
コンテキストエンジニアリングとファシリテーションは、その技術と重要な点が驚くほど似ています。
ファシリテーターの役割と、コンテキストエンジニアリングの考え方の共通点
重要な点 | ファシリテーターの役割 | コンテキストエンジニアリングの背景 |
1. 適切な「問い」の設計 | 参加者が本質的な議論をするための問いを設計する | AIが最適な思考をするための文脈と問いを設計する |
2. 情報の整理と構造化 | 散らばった意見を整理し、構造化して共有する | 必要な情報を整理し、AIが理解しやすい形で構造化する |
3. 文脈の共有と前提合わせ | 参加者間で共通認識を作り、議論の土台を整備する | AIに必要な背景情報を共有し、思考の土台を整備する |
プロセスの類似性
これは、AI活用の良し悪しと同じ構造です。
❌ 悪い例 | ⭕ 良い例 | |
目的設定 | ゴールを見失い、何の為の議論かわからなくなる | 目的と制約を明確化する |
情報共有 | 他の会議と同様の進行をする | 参加者に必要な情報を整理して共有する |
議論の深化 | 対話なしで正解を決める | 適切な問い→深掘り→再構成で議論を深める |
企業マーケティングにおいても、昨今の急速な外部変化の環境を踏まえると、「プロに相談すれば成果が出せる」時代が終わり、対話を通じて「そもそも何を解決したいのか」を共に作り出すプロセスが重要になったと感じます。
AI時代において「適切な問いを設定する」ことの価値が相対的に高まり、「今何から取り組むべきか?」を適切に考えない限り、無駄打ちな施策となる可能性が高まりやすい時代だと感じます。
コンテキストエンジニアリングの重要なポイントとは
AIの性能が向上したからこそ、人間側の思考や能力が強く求められる時代になったと感じています。
能力 | 詳細 |
1. 問題解決思考 + 周辺知識 | AIに「何を解決してもらいたいか」を構造化して整理できる。関連する背景知識があるから、AIの出力の妥当性を判断できる。 |
2. 現状認識力 | 今置かれている状況を客観視できる。何が本当の問題で、何が表面的な症状なのかを見抜ける。 |
3. 言語化能力 | 複雑な状況や要求を、AIが理解しやすい形で「翻訳」できる。端的でありながら、必要な情報は漏らさない。 |
AIの活用方法の内、プロンプトはレシピブックに近いです。コンテキストエンジニアリングの概念は、職人がどのように道具を活用するか?に近く、その暗黙知を得るためのヒントが詰まっているように感じています。
なぜ文脈が重要なのか
同じ情報でも、受け取る側の文脈によって理解や判断は大きく変わります。AIも同様です。
例:「売上が前年比10%減少」という情報
受け手の文脈 | 解釈 |
成長企業の経営者 | 「深刻な問題」 |
業界全体が20%減少している中の企業 | 「相対的に善戦」 |
リストラクチャリング中の企業 | 「想定の範囲内」 |
AIは数ある選択肢を出す、究極のデータベースです。だからこそ背景情報、制約条件、目的、過去の経緯などの文脈を与えることで、表面的な分析ではなく、専門家レベルの深い洞察を提供できるようになります。
組織レベルからマーケティングへの変化
コンテキストエンジニアリングを意識できるかどうかで、取り組むべき業務の幅が今後ますます変わる印象です。
組織レベルの変化 (Shopifyの例)
- 「AIにコンテキストを読み込ませる」能力が従業員の基本的な期待になりつつあり、パフォーマンス評価にも組み込まれている。
- 人員増加を申請する前に、「なぜこのタスクは、『適切にエンジニアリングされたコンテキスト』を持つAIエージェントによって完了できないのか?」を証明する必要がある。
Shopify CEO says no new hires without proof AI can’t do the job
結論:人間の価値がより明確になる時代
結局、AIを使いこなすというのは、AIという高性能な道具を使って自分の思考を拡張する技術です。
だからこそ、元々の思考力、経験、言語化能力が差として現れます。道具が高性能になればなるほど、使い手の腕前が問われます。
ファシリテーションスキルが高い人がAIを使いこなせるのは、どちらも「適切な文脈を作り、相手の能力を最大限引き出す技術」だからと考えます。
AIが高度になればなるほど、「適切な問いを設定する」「複雑な文脈を適切に整理する」「継続的な改善を設計する」といった、本質的に人間的な能力の重要性が高まります。
もし、作りこんだプロンプトを軸にしかAIを使っていない方は、ぜひ一度、AIのファシリテーターになったつもりで「AIとの文脈」をデザインしてみてください。
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