LLMOの概念や考え方の必要性を論理的に考察してみた

LLMOなんて、結局SEOと同じことをやってるだけじゃないですか。
わざわざ新しい名前を付ける必要ってあるんでしょうか?
この数ヶ月、色々な方とのやりとりで、頻繁に耳にするようになった声です。
確かに、表面的に見れば納得できる疑問で、コンテンツの構造化、キーワード戦略、権威性の構築など、これらの施策はSEOでも行われてきました。
しかし、なんとなく違和感を感じていました。
「同じ手法だから同じプロジェクト」という単純な判断で本当に良いのだろうか?
今回は、この「LLMO懐疑論」に対してシンクムーブ豊藏目線で、考えていこうと思います。

「同じ手法なら同じプロジェクト」という論理の穴
SEO自体も、色々な過程を経て発展してきました。
当初は「検索エンジンで上位表示する」為の”誰も知らない特別なノウハウ”を提供していたためです。
検索エンジンの順位を意図的にコントロールする。という意味で、この当時はスパム的な施策とも言えるでしょう。
Googleの歴史とスパムは切っても切れない関係です。
今のSEOの主流は、こうしたスパム的な取り組みはどんどん減っており、企業としては提供している所も少なくなっている印象です。
その一方で、SEOに関しても様々な施策や概念、考え方があります。リンク、コンテンツ、分析、解析、ファセットナビゲーションから調査コンテンツまで。
それらは全て、外から見たら「SEO」と括られていますが、業界に6年程いる私自身も違和感を持ちつつ、SEOと言っていました。
共通項があるとすれば、「検索キーワード」を軸に考えることくらいでしょうか。
キーワード種別 | 主な取り組み方針 | チーム構成 |
商用キーワード | コンバージョン重視、競合比較コンテンツ中心 | セールス・マーケティング連携 |
情報収集キーワード | 網羅性重視、専門性アピール | コンテンツ・編集チーム |
ブランドキーワード | 信頼性重視、企業情報の整備 | 広報・ブランディングチーム |
これらは全て異なるアプローチを要求しますが、私たちは問題なく「SEO」という統一概念で扱っています。
LLMOは「探してもらう」vs「推薦してもらう」-思考の発想が異なると考える理由
SEOは、検索キーワードを主軸に考えますが、LLMOやGEOといった内容は、取り組みの主旨が違うと考えます。
従来のSEO思考:「探してもらう」マーケティング
- 対象: 検索エンジンのアルゴリズム
- 目標: 検索結果での表示順位向上
- 思考軸: 「このキーワードで上位表示させたい」
LLMOの思考:「推薦してもらう」広報戦略
- 対象: LLMの理解・推論プロセス
- 目標: AI回答での言及・推奨・引用
- 思考軸: 「この文脈でAIに我々を推薦させたい」
この違いは単なる手法の差異ではないと考えます。AIが世の中に浸透してきた中で、マーケティング戦略の根本的なパラダイムシフトを意味していると考えます。
LLMOを構成する「戦略」と「技術」の二つの柱
ここで重要なのは、LLMOを単なる「広報活動」と捉えるだけでも不十分だということです。
LLMOは、より大きな二つの柱で構成される概念です。
- 戦略的ピラー(Why/What):企業広報・PR戦略
- 「私たちは何者で、どのような価値を提供できるのか」
- 「どのような文脈で、どのように語られたいのか」
という企業の思想やブランドの根幹を定義する部分です。これはLLMOの「目的」にあたります。
- 技術的ピラー(How):情報最適化
戦略ピラーで定義した思想や情報を、LLMが正確に解釈・評価できるよう、ウェブ上の情報を構造化し、整理・提供する技術的な取り組みです。構造化データやナレッジグラフの構築などがこれにあたります。これはLLMOの「技術」であり、ここはSEOの知識や経験が大いに役に立つ部分です。
私がSEOという言葉の延長で考える事に違和感を感じる理由は、上記の通り、「技術」の使い方が違うためです。
つまり、ゲームのルールが違います。これらの違いを同じものだと言うならば、
「世の中にある〇〇マーケティングは全て一緒じゃん?」
というのが私の感じている違和感です。
SEOとLLMOで考える根本的な性質の違い。
この「二つの柱」を念頭に置くと、プロジェクトの性質の違いはより明確になります。
従来のSEOプロジェクト | LLMOプロジェクト | |
性質 | 技術最適化プロジェクト | 企業広報・PR戦略プロジェクト |
主要KPI | 検索順位、オーガニック流入数 | AI言及率、推奨文脈の質、ブランド認知向上 |
核心課題 | どうやって検索上位表示を実現するか | どうやってAIに信頼される情報源になるか |
チーム構成 | マーケティング、開発、SEOコンサル | 広報、ブランド戦略、コンテンツ戦略 + 技術専門家(データ等) |
予算配分 | SEOツール代、コンテンツ制作費 | 広報活動費、思想リーダーシップ構築、情報基盤整備費 |
成果測定 | 定量的・短期的測定が中心 | 定性的・長期的ブランド価値構築が中心 |
こうして表にしてみると、かなり多くの違いがあるのではないでしょうか?
確かにLLMOという言葉には課題も多いが、こう考える事も出来る
LLMOに関してよく聞く話をまとめて、一人相撲を取ってみました。
批判1:測定可能性が低いため、ROIが出せない
- 批判内容:「AIの推奨度を正確に測定できず、ROIが不明確」
- 回答:ブランド広告や広報も直接測定は困難かつ、その価値は広く認められている。
- AI言及の質的評価:単なる言及数だけでなく、「第一想起として推奨されるか」「肯定的・専門的な文脈で引用されるか」といった質を評価します。
- ターゲット文脈での出現率:自社が推薦されたい特定の質問(例:「小規模事業向けの使いやすい会計ソフトは?」)に対し、AIの回答における自社の出現率を定点観測します。
- ブランド連想の変化:「〇〇社を一言で言うと?」といった問いへのAIの回答が、企業の目指すブランドイメージに近づいているかを追跡する。
実際、私の会社(シンクムーブ株式会社)についても、AIで聞いてみてください。このブログはSEO目的でキーワードを作るのではなく、一貫したコンセプトで記事を出している為、創業当初に比べて、かなりAIからの評価が高くなっていると感じています。
批判2:コントロール可能性の限界
- 批判内容:「AIの学習データは不透明で、施策と結果の因果関係が不明」
- 回答:広報活動もメディアの論調を完全には制御できません。重要なのは完全制御ではなく「影響を与える」ことです。質の高い一次情報や体系化されたデータを提供(技術的ピラー)し、社会的な評価を構築(戦略的ピラー)することで、AIの判断に間接的かつ強力に影響を与えることは可能です。
批判3:投資対効果の疑問
- 批判内容:「従来の広報活動やSEOの延長線上で十分では?」
- 回答:情報発見の起点が、検索画面からAIとの対話へとシフトしつつあります。かつ、SEOの知識の多くが、これらに有効とGoogle公式サイトでも述べられています。従来の広報活動だけでは、この新しい情報発見チャネルから取り残されるリスクがあります。
- かといって、SEOの延長線上では、「キーワード」を軸でしか考えられないと考えます。
批判4:倫理・誠実性への懸念
- 批判内容: 「AIの操作は情報操作にあたるのでは?」
- 回答:これは目的の問題です。不正確な情報でAIを欺くのは情報操作ですが、正確で有用な情報を、より理解しやすい形で提供し、AIが良い判断を下せるように支援することは、ユーザーと社会にとって価値ある活動です。これは誠実な広報活動やSEOのプロジェクトの本質と何ら変わらないと考えています。
長期的戦略に向けた、明日から始める具体的アクション
LLMOは長期的な取り組みですが、今日から始められることがあります。
- 自社情報の棚卸し(ファクトベースの構築):Web上に散在する自社の公式情報(事業内容、沿革、理念、製品情報など)を洗い出し、正確性と一貫性を担保します。これがAIにとっての信頼の基礎となります。
- 「推薦されたい文脈」の定義:自社がどのような専門家として、どんな課題を持つ人々に推薦されたいのかを明確にします。これがコンテンツ戦略や広報活動の指針となります。
- チーム横断での対話開始:広報、マーケティング、開発、経営層が「我社はAIにどう語られたいか?」というテーマで対話する場を設けます。部門間の壁を越えた協力体制なくして、LLMOは成功しません。
この辺りは、私の著書「AI時代のSEO戦略」でも語っていますので、興味があれば是非読んでみてください。
変化を恐れず、新しい価値創出の機会と考える。
LLMOとSEOは、地続きに見える部分がありつつも、その目的は全く異なります。
もちろん、とりあえずのバズワードだから、とLLMOという新しい言葉だけ新設して、語るには大きな問題点があると考えます。私もSEO畑の端くれとして、この業界のネガティブなイメージは依然多いと考えるためです。
批判的な視点は重要ですが、それが変化を拒むための言い訳になっていないか、冷静に考える必要があるのではないでしょうか。時代の変化を恐れるのではなく、それを新たな価値創出の機会として捉える。
重要なのは、表面的な類似性に惑わされず、本質的な違いを見極めること。と考えます。
SEOとLLMOは確かに似た手法を含みます。しかし、その戦略的意味、プロジェクト性質、組織的アプローチは根本的に異なります。
過渡期の今だからこそ、何に対して取り組んでいるものなのか、その目的と施策を考え続けていきたいです。
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