『SEOはもう終わり』って本当?現役コンサルが語るAI時代の正しい向き合い方

半年ほど前、NewsPicksで「【SEO崩壊】AIで『マーケティングの鉄則』が激変している」という記事が大きな話題になりました。この記事では、AI技術の進化により従来のSEO手法が通用しなくなり、マーケティングの根本的な変革が起きていると論じられています。
2025年6月現在も、現在海外でリリースされたGoogleのAI ModeやAudio Overviewをはじめ本当に大きな変化の渦中にいます。
私は現役のSEOコンサルタントとして、この5年間で数十社の企業支援を行い、ChatGPTの登場から始まったAI技術の進化を間近で見てきました。
クライアントからも
- 「SEOはもう投資する価値がないのでは?」
- 「AIに全部切り替えるべきでしょうか?」
といった相談を日常的に受けています。
だからこそ、この議論に対して現場の実情を踏まえた冷静な見解を共有する必要があると感じています。

結論ファースト:SEOの相対的な価値は確実に変化している
正直、SEOという仕事の多い私から見ても、SEOの相対的な価値が減少しているのは間違いありません。これは現場で日々感じている実感であり、データでも裏付けられている事実です。
しかし、ここで重要なのは「価値の減少」と「完全な終了」は全く別の話だということです。
むしろ今起きているのは、SEOの「終わり」ではなく根本的な「進化」のプロセスです。
SEOの本来的価値は「課題とマッチしたユーザーと接点を持つことができること」

そもそもSEOの価値とは何だったのでしょうか。あえて一言で言うと
「課題とマッチした見込み顧客となりうるユーザーと接点を持つことができる」
だと考えています。
これがどれほど強力な仕組みかというと、プロダクトにマッチした潜在課題となるキーワードのプランニングをし、そこに対応するランディングページで順位が向上すれば、想定したユーザーからの流入を獲得し続けられるのです。
この継続性とコスト感覚は、他のマーケティング手法ではなかなか実現できません。
リスティング広告は予算が尽きれば流入が止まりますし、SNS投稿は時間が経てば流れてしまいます。しかしSEOで獲得した検索上位は、適切にメンテナンスすれば長期間にわたって価値を生み続けます。
また、再流用も容易です。良質なSEOコンテンツはその後メルマガ、ホワイトペーパー、SNS、YouTubeなどへの転換が容易です。需要に対する解決策を提示するコンテンツというものは、作りこめばそれ自体が強力な源泉となります。
なぜSEOは今まで生き残ってきたのか
実は数年前から「SEOはオワコン!」という声は何度も上がってきました。
特にSNSマーケティングが台頭した際には「検索の時代は終わった」とまで言われました。
しかし実際はどうだったでしょうか。SNSを中心とした情報発信の多様化により検索流入の分母は一定程度減少したものの、その影響は予想ほど大きくはありませんでした。
それはなぜか?一言で言えばクエリ(悩み=検索キーワード)を軸に「ユーザーの課題を解決する」という文脈において、検索エンジンが完全に代替されていないためです。
実際、私たちが日常的に扱っている検索トラフィックデータを見ても、適切なSEO戦略を実施している企業では安定した流入とコンバージョンを獲得し続けているケースも数多くあります。
今後の減少可能性はあれど、比率としてはまだまだ大きいサイトは多いです。
AI進化がもたらしたSEOの決定的な変化
では、なぜ今になって「SEO崩壊」という議論が現実味を帯びているのでしょうか。それは、昨今の生成AIの進化が従来の情報探索体験を根本的に変えようとしているからです。
生成AIの進化が与えたインパクト

ChatGPT、Claude、AI Overview、Felo、Perplexityといったツールの登場と急速な進化は、私たちの情報探索行動を劇的に変化させました。
特に重要なのは以下の変化です
- 情報探索の即時性向上:複数のサイトを回遊する必要がなくなった
- 回答の質の向上:文脈を理解した的確な回答が得られるようになった
- パーソナライゼーションの進化:ユーザーの状況に応じたカスタマイズされた情報提供
これらの変化が示しているのは「検索エンジンのような情報を探求するプラットフォームに、人為的なハックが発生するべきではない」という新しい価値観の浸透です。
Googleの歴史は、スパムとの戦いの歴史です。複雑なアルゴリズムによって、適切なサイトを表示する事を人為的に取り組んでいましたが、AIの出現に伴い検索アルゴリズムそのものもAIを活用することが現実的となりました。
実際、「ニーズに合わせた文章を生成するだけであれば生成AIで十分であり、その質も今後さらに高くなる」という現実です。これはもはや既定路線と言えるでしょう。
取り組んでいればOKだったSEO施策に変化が起き始めている

この変化により、従来のSEOで重視されてきた多くの施策に再評価が求められている印象です。
- 「検索エンジンに◯◯という見出しを入れれば順位が上がる」
- 「このようなマークアップをすれば評価される」
- 「キーワード密度を◯%にすれば最適化される」
こうした小手先のハックのようなSEOマーケティング施策は、「社会が求めていないこと」と言っても過言ではないフェーズに入っています。
実際、私自身もクライアントへの提案内容を大きく見直しました。
2年ほど前までは「タイトルタグの最適化」「キーワードの含有率」「SEOマークアップの修正」といったテクニカルな施策も多かったですが、今ではそれらは土台として扱い、差別化は「コンテンツの独自性・専門性」に重点を置いています。
SEOはマーケティングを行う為の思考の道具の1つになりつつある
SEOは本当に完全に不要になるのでしょうか。現役でSEOに取り組んでいるコンサルタントとして断言できるのは、「本来的な意味でのSEOの取り組み」においては、SEOの知識や手法の意義は依然として大きいということです。

マーケティングにおける「文脈」の重要性
SEOは根源的には、「潜在・顕在ニーズがあるクエリに対して、そのニーズを満たしたコンテンツやページを提供すること」に価値があります。
マーケティングにおいて最も重要なのは「文脈」です
- Aという情報を知った結果
- Bという情報への興味が生まれ
- Cというニーズにマッチしたプロダクトとの出会いが生まれる
こうした文脈に合わせて最適なソリューションを提供することが、本来の意味でSEOに取り組む人たちが大切にしていることなのです。
事業目線でのSEO思考の展開
事業目線でSEOに取り組んでいる人間であるほど、マーケティングや経営、企業のアセット全体に着目します。
そして、その解決策はSEOコンテンツにとどまらず、調査リリースやホワイトペーパー、YouTube動画、ウェビナーなど様々なソリューションの源泉となります。
具体例
SEOキーワード調査から「技術者が設備導入時に抱える課題」を発見
→ 単なるSEO記事ではなく、技術資料をまとめたホワイトペーパーを作成
→ それが主力のリード獲得チャネルとなり、SEO以上の成果を創出
具体例
検索で見つけた顧客の潜在課題を深掘り
→ 課題解決のためのウェビナーシリーズを立ち上げ
→ SEO流入×ウェビナー参加×商談化の強力なファネルを構築
こうした事例が示すのは、SEO的な思考は検索順位向上を超えた価値を持つということです。
結局は、「事業にインパクトのあるオーガニック流入」が作れるかどうか
現在、生成AIによって粗雑なコンテンツが乱立していますが、どの道AIがキュレーションしたコンテンツと差別化できないコンテンツの価値は激減していくでしょう。
それよりも「事業にインパクトのあるオーガニックチャネルに対してできることは何か?」を考え施策を立案する人間の意義はますます大きくなると考えます。
上記を考えた上でのSEOと生成AIの問題点
現在の状況を冷静に見ると、生成AIには生成AI特有の課題があり、SEOにはSEO固有の課題があります
生成AIの課題
- 情報の信頼性・正確性の担保が困難
- 出力内容の一貫性が保てない
- ファクトチェックや監修プロセスが複雑
- ブランドのトーン&マナーとの整合性確保が困難
SEOの課題
- 従来のテクニカル施策の効果減少
- AI生成コンテンツとの差別化の必要性
- 検索結果での露出機会の減少可能性
- ROI測定の複雑化
AIで実現可能かもしれない技術はあるものの、現実的にソリューションを考えた時、事業計画を立てる際に数値にコミットできない問題や、AIで作った成果物の不安定さは確実に課題となります。
何より、企画~実行までを一人の人間が現実的に出来るフェーズへと突入した感覚があります。
一昔前も個人のエンパワメントというキーワードがありましたが、生成AIによってますます加速するでしょう。
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完璧なマーケティングプランが存在しないVUCAな時代だからこそ、このような課題が増えてくるでしょう。
シンクムーブはSEOをどう捉えているか

私自身の今の解釈としては「SEOは今もマーケティングを行う上で大きな流入チャネル」であり、「Google AI ModeをはじめとしたGoogleや他の生成AIベンダの動向」によってその価値が大きく変わるものになる。と考えています。
今流入が増えているならそれは喜ばしいことですし、減っているとしたら、他のチャネルを考えられる柔軟性が必要と考えています。
現在のSEOプレイヤーが生き残るためには、「SEOという手法の概念を把握した上で、生成AIが普及する現在において、どのような価値を発揮していくか?」を考える必要がありそうです。
納品物を作る延長線上で、SEOというマーケットで生き残るのは難しくなるでしょう。私自身、この1年間でクライアントへの提案内容を根本的に見直しています。
具体的な取り組み
- AIツールとの協働体制構築
- コンテンツ制作プロセスにChatGPTとClaudeを組み込み
- データ分析・レポート作成の実装部分のAI活用
- 仮説立案段階でのAI活用により、提案精度を向上
- ブランド戦略との統合強化
- SEOを単体施策ではなく、ブランド戦略の一部として再設計
- 企業の独自性や専門性を活かしたコンテンツ設計手法の開発
- E-E-A-T(Experience, Expertise, Authoritativeness, Trustworthiness)を重視した長期戦略
- 組織全体を巻き込むファシリテーション強化
- 部門横断的なプロジェクト推進
- 経営層への戦略的提案スキルの向上
- データドリブンな意思決定支援システムの構築
時代の変化を恐れるのではなく、それを新たな価値創出の機会として捉える。
これが私の基本的な姿勢です。このあたり興味がある方は是非私の書籍も読んで頂けると嬉しいです。
AI時代のSEO戦略──組織を動かし成果を引き寄せる実務マネジメント
SEOを企業が考える際に意識すべきポイント
SEO施策に関しては、見直しや全体最適の動きが進んでいます。
そこで、現在インハウスマーケターの方が何をすれば良いのか、ポイントを解説します。
企業・担当者がAI時代となった今取り組むべきこと
1. 「AI or SEO」ではなく「AI × SEO」の発想を持つ
まず重要なのは、AIとSEOを対立するものとして捉えないことです。
- AIを活用してSEOの効率を高める(コンテンツ制作の初期段階、競合分析、レポート作成等)
- SEOの知見を活かしてAI活用の精度を上げる(ユーザーニーズの理解、検索意図の分析等)
実際、AI OverviewやGoogle AI Modeの多くには既存の取り組みが評価されるケースが多いです。

2. 自社の価値を再定義し、プレゼンスを発揮する領域を決める
AI時代だからこそ、以下の問いに明確に答えられる状態を作りましょう
- 自社にしか提供できない価値は何か?
- 顧客が自社を選ぶ理由は何か?
- 自社の専門性や経験はどこで差別化できるか?
旧来のSEO市場環境と違い、自社サービスに明確な強みが無い状態では評価もされにくいです。
その為、「流入が獲得できるから取り組む<自社の顧客に届けたい情報をWeb上で反映する」という思考を持ちましょう。
3. テクニック依存からの脱却方法
従来の考え方を以下のように転換しましょう
従来の発想 | 新しい発想 |
---|---|
このテクニックを使えば順位が上がる | ユーザーの課題解決が最優先 |
キーワードを狙って記事を作る | ユーザージャーニー全体を設計する |
検索順位の向上が目標 | 事業成果への貢献が目標 |
SEO単体での成果を追求 | マーケティング全体での最適化 |
まとめ:未来への解像度の高さが、その後の伸びに直結する

SEO「終了」説はますます加速していますが、私たちは恐怖や不安に支配されることなく、変化を見極める必要があります。
AI時代だからこそ重要になる人間の価値でもある、創造性、判断力、共感力
そして何より「なぜ?」を問い続ける思考力を磨き続けることで、どんな技術的変化にも対応できる土台を築けるはずです。
重要なのは、技術の変化以上に、変化の背景にあるユーザーニーズや社会的価値の変化を読み解くこと。そして、自分たちが提供できることを見つめ直し、それを新しい時代に適した形で表現していくことです。
誰もまだ、完璧な答えは持っていません。だからこそ、さまざまな情報をインプットした上で、試行錯誤を恐れず、自分なりの価値を探求し続けることが何より大切だと考えます。
そして、もしSEOやAI活用について具体的にお悩みの点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。一緒に最適な解決策を見つけていきましょう。

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